摘要 : 気候変動が将来の食料安全保障へ及ぼす影響を評価するために必要不可欠な情報である，一人当たり食事エネルギーの平均必要量，最低必要量，および国レベルの食事エネルギー必要量について，気候変動に関する政府間パネル（IPCC）の「排出シナリオに... 展开 気候変動が将来の食料安全保障へ及ぼす影響を評価するために必要不可欠な情報である，一人当たり食事エネルギーの平均必要量，最低必要量，および国レベルの食事エネルギー必要量について，気候変動に関する政府間パネル（IPCC）の「排出シナリオに関する特別報告書（SRES）」の4つの社会経済シナリオにもとづいて，世界184カ国を対象に1990年から2100年の長期予測をおこなった。 既存研究における長期の食料需要予測では，食料価格および所得レベルの変化にもとづいて需要が明示的匝ositive）に推計される例が多いが，本研究では規範的（nomative）なアプローチをとり，将来の人口シナリオにもとづいて栄養学的に必要とされる一人当たり食事エネルギー必要量を推計し，さらに各国における食事エネルギー摂取の不平等度の推移を一人当たり所得のシナリオから推定して，慢性的な栄養不足を生じさせをいために必要な国レベルの食事エネルギー必要量の長期推計を試みた。 　 推計の結果，世界全体の食事エネルギー必要量は，予測の基準年（1990年）では，同年の世界の食事エネルギー供給量（5．188×1015kcal）の1．29倍であったが，高成長社会シナリオ（Al）および，持続発展型社会シナリオ（Bl）では，2050年に約1．90倍でピークに達し，その後減少に転じることがわかった。 また，多元化社会シナリオ（A2）および，地域共存型社会シナリオ（B2）では，食事エネルギー必要量は今世紀末まで増加し続け，2100年にはそれぞれ，3．36倍，2．25倍まで到達することが予測された。 これらの結果から，将来の食事エネルギー必要量は，社会経済がどのような発展経路をとるかによって大きく異なってくることが明らかにされ，今世紀末までを見据えた長期の食料安全保障の検討においては，どのような社会経済の発展方向を前提としているかについてまず議論することが必要であることが明示された。 一方で，社会経済の発展方向にかかわらず，世界の食事エネルギーの必要量の1990年からの増分のうち，2050年においては実にその95％以上が開発途上国における増分であることが予測され，開発途上国における将来の人口変動と食事エネルギー摂取の不平等度の推移が，需要サイドから長期的な食料安全保障に多大な影響を及ぼすことが示唆された。 　 今世紀を通して，気候変動や都市の拡大砂漠化などにより農地として利用可能な土地や水資源の制約が顕在化してくると予想される。 これらの土地利用や水資源の最適配分の検討において，食料安全保障の立場から本研究の規範的なアプローチによる食事エネルギー必要量の分析結果が活用されることが期待される。 收起